植木フルート&クラシックギター教室の日記

植木フルート&クラシックギター教室は新潟市中央区の閑静な住宅街に佇む音楽教室です。このブログではフルートやクラシックギターを新しく始めたい、あるいはすでにやっている方向けの情報や当教室の講師の日常の一場面を綴っていきます。よろしくお願いします。

ホームズとギター

 シャーロック・ホームズの短編5冊の再読がようやく終わりました。

 

 この読み返しの目的はホームズがヴァイオリンをギターのように膝に構えて指で爪弾くシーンがあったかどうかをチェックすることでした。

 

 結局指で弾くシーンは見つかりませんでした。前にも書きましたが、『緋色の研究』のホームズが肘掛け椅子にもたれて、ヴァイオリンを膝にのせて「かき鳴らす」場面から私は指で弾いていると誤解してしまったみたいです。

  しかしその箇所のScrapeという単語が「かき鳴らす」と訳されていることも誤解を生んだ原因だと思います。

 この場合のScrapeは明らかに弓を使って音を出すことを意味していますが、訳文の「かき鳴らす」は指で弾くという印象の日本語だと思います。

 『ノーウッドの建築業者』という作品にも、失敗に終わった捜査から帰ってたホームズがヴァイオリンを一時間ほど「かき鳴らす」場面がありますが、ここも原文を読んでも、指で弾いていることを表す表現はありませんでした。

 

 残念ながらギターのようにヴァイオリンを弾くホームズの姿は私の誤解が生み出した幻でした。ピッチカート奏法がある以上、エキセントリックな名探偵がやっていてもおかしくない行為だと思うのですが…

 

 この読み返し作業でふと気がついたのですが、コナン・ドイルの書いたホームズシリーズの中で「ギター」という単語は一度しか出てきませんでした。

 

 その一度は『ウィステリア荘』という作品に出てきます。この話は依頼人であるイギリス人紳士がガルシアというスペイン系の新しい友人に招かれてウィステリア荘で一夜を過ごし、奇妙な体験をしたことに端を発する奇怪なミステリーです。

 作中でホームズとワトソンのコンビがウィステリア荘を捜査のために訪れるのですが、その際の家の内部の描写で「ギター」という言葉が出てきます。

 

 スペイン系の人物の家だからギターを置いておこうというような描かれ方に感じます。

 コナン・ドイルの時代でもスペインと言えばギターという認識があったのでしょうか。ドイルと同時代の大ギタリストと言えば、なんといってもフランシスコ・タレガ(1852〜1909)ですし。影響力ありそうです。

 

 この素っ気なく描写された「ギター」ですが、果たしてどんなギターだったのでしょうか?

 

 この『ウィステリア荘』の事件は1892年(諸説ありますが)の出来事です。世紀末ですが一応19世紀です。19世紀のロンドンのギター製作家と言えばルイス・パノルモ(1784〜1862)です。

 「ロンドンで唯一のスペイン風スタイルのギター製作家」というふれこみでギターを製作していたことでも知られています。

パノルモはパリのラコートやウィーンのシュタウファーと並び称される重要な19世紀ギターの製作家です。

 

 先ほど述べたようにウィステリア荘の事件は1892年なのでパノルモが世を去ってから28年も経っています。しかしあそこにあったギターが当時からしてもやや古いパノルモのギターであった可能性はあるはずです。すでに存在していた現代のクラシックギターにつながるトーレス型のモダンな楽器よりも雰囲気が出そうです。

 19世紀を舞台とした小説の中に出てくるギターの描写を見つけて、あれこれどうでもいい事を考えるのが最近の私の趣味になりつつあります。

 

 今はエドガー・アラン・ポーの作品を読んでいるのですが『アッシャー家の崩壊』という作品にはギターが登場します。

 

ちょっと長くなりすぎたので、それについてはまた後日紹介します。

 

植木